東北大学の胎児生理学研究室では世界に先駆けて、ヒツジ胎仔を用いた子宮内炎症モデル、胎仔脳白質損傷モデル、新生児慢性肺疾患モデルを開発しました。現在はポンプレス人工胎盤装置を開発して、成育限界期胎仔の循環動態や内分泌環境について解析しています。
本プログラム参加者は上記の研究に最低1年間参加することによって、実験計画法、データ解析法、英文論文執筆について学ぶとともに、学位論文を投稿する機会が得られます。
今私はオーストラリアの西オーストラリア州にあるパースにある西オーストラリア大学でvisiting researcherとして採用され、働いています。毎年6月~8月にこの西オーストラリア大学に、周産期医学に関わる研究を行っているアメリカ、ドイツ、イギリス、オランダ、ニュージーランド等多国籍にわたる研究チームが集結し、250~300頭のヒツジを用いて8-10のプロトコールを協力し合いながらこなしていきます。我々がシープシーズンと呼んでいるこの時期は本当に忙しく、ほぼ1カ月半、土日もなく朝早くから夜遅くまで毎日を駆け抜けていくといった印象です。そのプロトコールの中のひとつに我々の人工胎盤プロジェクトが採用されています。もともと産婦人科の斎藤昌利先生とこちらの上司であるDr.MattewKempが同じ研究室でお仕事をされていた関係から、この人工胎盤に関する相互研究がこの西オーストラリア大学ではじまりました。前任の三浦先生のころから始まり今年で3年目になります。1年目、2年目で48時間の安定した生存を目指し、今年度はさらなる進歩をめざし、全7例のヒツジに対して1週間に渡る人工胎盤を用いた管理を試みました。日本から手伝いに来ていただいた埴田先生、斎藤先生、渡邊真平先生、佐藤信一先生、池田先生の御助力もあり無事7例中5例のデータをとることができました。本当にありがとうございました。今まで少し懐疑的だった他の国の方々からもConglaturations, You could show its possibility!と賛辞をもらうことができました。これから継続していくためにも、この国でも研究費をとっていかなければなりません。そのためにも、もう人工胎盤も3年目であり、トライアルではなく他を納得させていく必要があるタイミングでもあったので純粋にみんなで作り上げた努力が実ってよかったと安堵しています。
私自身は去年の12月に急遽こちらでの赴任がきまり突貫でビザを取得し、5月の半ばに渡豪したため、ここに赴任して即座に居住環境の確立、6月の下旬から始まる今年度のシープシーズンにむけた新たな人工胎盤システムの確立とその準備を平行して行わなければなりませんでした。当然不慣れな英語に加えて、価値観、システムの相違もあり、すべてが順調にいくわけもなく、正直今この文章をかいている8月の終わりまでの約3カ月が激動すぎて言葉では言い表せません。いろいろありすぎて。恰好よくクールにeasyだったよといいたいところですが、正直なところとても大変でした。久しぶりに多くの責任、プレッシャーを感じましたが最終的にはそれらを楽しめるようになり人間として一つ成長できたかなと思っています。
私自身は手先が器用なわけでもなく、特殊技能があるとも思っていません。みんなの協力のもとこの場で働かせてもらっています。なので、今後は後輩となる若い先生方にもぜひ気負うことなく、気軽に参加していただき新しい視点からどんどん柔軟に意見してもらったり、各々得意とするものを持ち寄って、みんなで前進していければよいなと思っています。そのような機会を提供できるようにもう数年こちらでがんばりたいと思っています。
最後に今回このような機会を与えていただき、そして協力していただいた日本の東北大学新生児グループ全ての方に御礼申し上げます。
東北大学病院 総合周産期母子医療センター
臼田 治夫
このたび、Tokoku Journal of Experimental Medicine に、私が第一著者として執筆させていただきました論文“Surgical Ligation for Patent Ductus Arteriosus in Extremely Premature Infants: Strategy to Reduce their Risk of Neurodevelopmental Impairment”が無事掲載されましたので、ご報告させていただきます。
この論文掲載に至るまでには、想像以上の労力を要しました。
始まりは、2013年度の、私がプログラムイン宮城で、八戸市立市民病院新生児科に所属していた時でした。寒い冬、松田先生がわざわざ八戸市民病院にいらしてくださった際に、私のほうから次年度以降の意向として、「英文論文を執筆すること、大学でさらに臨床の研鑽をつみたい」とお願いしたことを覚えております。医師として働き始めて10年が近づき、臨床から多くのことを吸収してきましたが、同時に伸び悩んでいる自分にも気づき、新しいことにチャレンジしたいと考えるようになっていた時期でした。
移動してすぐに研究が始まりましたが、そもそも、“臨床研究の進め方”を全く理解していない状況からのスタートでした。このため、膨大なデータの処理に頭がパンク寸前になりかけましたし、一番大変だったのは、“客観的な結果を正しく解釈し、論理的に読者の納得できる結論を書きあげること”でした。もう、何回、何十回書き直したか知れません。こんなにも大変なものかと、何度も挫折しそうになりましたが、松田先生をはじめ、共著者の先生方のご指導、ご協力により、今回、雑誌掲載まで到達できたことに達成感と大きな喜びを感じております。ありがとうございました。
2016年4月より、私は、横浜市立大学医学部循環制御医学教室で、“動脈管の閉鎖の分子生物学的機序”の研究に就かせていただいております。東北大学NICU時代から興味を持ち、論文も発表させていただいた、動脈管に関する基礎研究に携わらせていただけることは、とても幸運なことだと感じ、日々喜びをもって研究に取り組んでいます。まだ基礎研究については未熟者で、多くを語るほどの知識や経験もございませんが、自分の研究成果が未来の新生児医療の発展の一助になることを夢見て、日々取り組んでいきたいと思います。
横浜市立大学医学部循環制御医学教室 共同研究員
伊藤 智子